「ラベンダーの香りでリラックスできる」「ローズマリーで集中力が上がる」。香りの効果についてはよく聞きますが、実際に研究でどこまでわかっているのでしょうか。この記事では、論文やシステマティックレビュー(複数の研究をまとめて分析したもの)をもとに、香りの効果を「わかっていること」と「まだわかっていないこと」に分けて解説します。
この記事のポイント
- 香りは、脳の中で感情や記憶に関わる部分と結びつきやすい
- ラベンダーで不安がやわらぐという研究は多いが、研究の質にはばらつきがある
- 「香りの効果を信じているか」という期待も、感じ方に影響する
まず結論:香りの効果の「確からしさ」
ラベンダーと不安
わかっていること:吸入や経口(サプリメント)で不安の指標が下がったという研究が多い
確からしさ:中程度(研究数は多いが、質にばらつき)
香りと記憶・感情
わかっていること:香りで思い出す記憶は、言葉で思い出す記憶より感情的で、脳の感情に関わる部分がよく働く
確からしさ:比較的しっかり(脳画像の研究あり)
ローズマリーと集中・記憶
わかっていること:香りの成分の血中濃度が高い人ほど、計算課題の成績がよかった
確からしさ:まだ限定的(小規模な研究)
期待(思い込み)の影響
わかっていること:「効く」と思うかどうかで結果が変わることがある
確からしさ:重要な注意点
なぜ香りは気持ちに影響しやすいの?
鼻で感じた香りの情報は、脳の中でも感情に関わる「扁桃体(へんとうたい)」や、記憶に関わる「海馬(かいば)」などと近い経路で伝わることが知られています。ほかの感覚に比べて、香りが気持ちや思い出と結びつきやすいのはこのためだと考えられています。
香りで思い出す記憶は「感情的」
ある香りをかいだ瞬間に、昔の出来事をありありと思い出した経験はありませんか?これは研究でも確かめられています。
📄 Arshamianら(2013年、Neuropsychologia誌)
- 香りをきっかけに思い出した記憶と、言葉をきっかけに思い出した記憶を比べた研究
- 香りで思い出した記憶のほうが、より感情的で、「その時に戻ったような感覚」が強かった
- 脳画像(fMRI)では、香りの場合に扁桃体を含む感情に関わる領域がより活発に働いていた
香水を「思い出の香り」として選ぶ人が多いのも、こうした香りと記憶の結びつきが関係しているのかもしれません。
ラベンダーと不安:研究は多いが、質はまちまち
香りの効果の中で、いちばん多く研究されているのがラベンダーと不安の関係です。
📄 Donelliら(2019年)のシステマティックレビュー・メタ分析
- ラベンダーに関するランダム化比較試験65件(約8,000人)などを分析
- ラベンダー成分のサプリメントを飲んだ場合、香りを吸い込んだ場合、ラベンダーオイルでマッサージした場合のいずれでも、不安の指標が下がる結果が出ていた
- ただし、マッサージの場合は「ラベンダーの効果なのか、マッサージの効果なのか」区別できない研究もあった
- 研究の質が低いものや、方法がばらばらなものが多く、より質の高い研究が必要とされている
📄 YooとPark(2023年、Healthcare誌)のシステマティックレビュー
- ラベンダー精油の「吸入」に絞って、ランダム化比較試験11件(972人)を分析
- 11件中10件で、吸入後に不安が下がったと報告されていた
- 対象の多くは、手術前の患者など医療の場面での「一時的な不安」で、不安症と診断された人の研究は少ない
つまり、「ラベンダーの香りで不安がやわらぐ可能性は高そう。ただし、研究の質や対象には限りがある」というのが、今わかっている範囲です。
ローズマリーと集中力:まだ小さな研究の段階
📄 MossとOliver(2012年)
- 健康な大人20人が、ローズマリーの香りが広がる部屋で計算などの課題を行った実験
- 香りの成分「1,8-シネオール」の血中濃度が高い人ほど、課題の成績がよい傾向があった
- 香りを「心地よい」と感じたかどうかと、成績には関係が見られなかった
興味深い結果ですが、20人という小さな研究です。「ローズマリーで頭がよくなる」とまでは言えず、今後の研究を待つ段階です。
見落とされがち:「効くと思う」気持ちの影響
香りの効果を考えるときに、ぜひ知っておきたいのが「期待(思い込み)」の影響です。
📄 HowardとHughes(2008年)
- 健康な女子大学生96人が、ストレスのかかる課題のあとに休憩をとる実験
- ラベンダーの香り、ラベンダーではない香り、香りなし、の3つの条件で比べた
- さらに、香りにどんな効果があるかの説明を変えて、参加者の「期待」を操作した
- 結果、ラベンダーの香りそのものによる効果は見られず、結果を左右したのは「香りにどんな効果があると思っているか」だった
つまり、「ラベンダー=リラックス」というイメージ自体が、感じ方に影響している可能性があるのです。ただ、これは香りに意味がないということではありません。好きな香りで「ほっとする」と感じられるなら、それも香りの楽しみ方のひとつです。
香りの効果と上手につきあうために
知っておきたいこと
- 香りは治療の代わりにはならない:強い不安や不眠が続くときは、医師や専門家に相談する
- 「効果」をうたう広告は慎重に:研究はまだ発展途上。言い切った表現には注意
- 精油は使い方に注意:原液を肌に直接つけたり、飲んだりしない。妊娠中や持病がある人、小さな子ども・ペットがいる家庭は特に注意する
- 自分が「心地よい」と感じる香りを選ぶ:好きな香りであること自体が大切
- シーンで使い分ける:休む前はやわらかい香り、作業中はすっきりした香りなど
- 香りを思い出と結びつける:旅行や特別な日に同じ香りをまとうと、あとで思い出しやすくなる
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まとめ
香りが気持ちや記憶と結びつきやすいことは、脳の研究でも確かめられています。ラベンダーと不安のように研究が多いものもありますが、研究の質にはばらつきがあり、「効くと思う気持ち」が影響することもわかっています。香りの効果を過信せず、自分が心地よいと感じる香りを、暮らしの中で上手に楽しんでみてください。
参考文献:Arshamian A, et al. (2013) The functional neuroanatomy of odor evoked autobiographical memories cued by odors and words. Neuropsychologia/Donelli D, et al. (2019) Effects of lavender on anxiety: A systematic review and meta-analysis. Phytomedicine/Yoo O, Park SA. (2023) Anxiety-Reducing Effects of Lavender Essential Oil Inhalation: A Systematic Review. Healthcare/Moss M, Oliver L. (2012) Plasma 1,8-cineole correlates with cognitive performance following exposure to rosemary essential oil aroma. Therapeutic Advances in Psychopharmacology/Howard S, Hughes BM. (2008) Expectancies, not aroma, explain impact of lavender aromatherapy on psychophysiological indices of relaxation in young healthy women. British Journal of Health Psychology

